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京都地方裁判所 昭和43年(む)78号 決定 1968年6月14日

主文

原裁判はこれを取り消す。

理由

一、本件準抗告の申立の趣旨および理由は、準抗告の申立書記載のとおりであって、その要旨は、被告人は勾留中終始事実を否認しているものではあるが、被害者である柴田富藏その他多数の関係人に対する捜査官の取り調べは終了し、本件公訴を維持するに足りる証拠は蒐集されたのであるから、勾留中の被告人としては、罪証を隠滅しようとしてもできるものではなく、また逃亡することもできない。(なお他罪があるというなら別個の手続にるよべきである)したがって、公訴提起後において被告人との接見等を禁止すべき理由はないから裁判官のなした接見禁止等の決定の取り消しを求めるというにある。

二、おもうに、被告人が逃亡し、または罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判所(裁判官)は、被告人と弁護人(または弁護人となろうとする者)以外の者との接見を禁じ、または、これと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、もしくはこれを差し押えることができることは、刑事訴訟法第八一条に規定するところである。

そこで、果して被告人に右のような理由が認められ、接見禁止等をなすことが相当であるか否かを、一件記録に基づいて順次検討する。

(一)  一件記録に照すと、現に勾留されている被告人が逃亡すると疑うに足りる相当な理由があると認めることはできない。

(二)  つぎに、本件の罪質、犯行の動機、態様、被告人その他関係人の被害者に対する脅迫的言動の内容、被告人の性格、前科等諸般の状況を総合して考察すると、被告人には罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるものと認めることができる。そして、右の罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があることは、一般に勾留の理由の一要件に数えられているのであるから、もしも同法第八一条にいわゆる罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由を、勾留の場合のそれと同一に解するときは、その理由によって勾留された被告人は常に接見禁止等をされるおそれを生じ、同法第八〇条等によって法令の範囲内で弁護人ら以外の者との接見などをなしうることが原則とされている法意にもとり不合理といわなければならない。したがって、同法第八一条にいわめる罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとは、被告人が拘禁されていても、なお罪証を隠滅すると疑うに足りる相当強度の具体的事由が存する場合でなければならないと解すべきである。

これを本件についてみるに、被告人は暴力団と称せられている篠原組になんらかのつながりをもつことが窺われるのであるが、本件犯行後未だ勾留されていない頃、右組の構成員と推測される数名の者とともに被害者である柴田富藏に対し、「このことは取り下げろ」などと申し向けて罪証隠滅工作をはかり、もしくは不当な威圧を加え畏怖させるような行為に出たことが推認される。しかし被告人らがかつて、そのような行為に出たことの一事をもって、現に勾留されている被告人らに右と同様な行為による罪証隠滅工作をする疑いがあると即断することはできないし、その他諸般の証拠をかれこれ比照し、右の罪証隠滅工作の事実を併せ考えてみても、被告人について弁護人ら以外の者との接見を禁止する等の措置を講じなければ、罪証を隠滅すると疑うに足りる強度の理由が存するものと認めることはできない。

(三)  なお、被告人に余罪があって、これに関する罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由が存することをもって、本件の接見禁止等の理由となしえないことはいうまでもないところである。

三、以上の理由により、被告人につき、刑事訴訟法第三九条第一項に規定する者以外の者との接見、書類その他の物(糧食及び衣類その他の日用品を除く)の授受をいずれも禁止した原判決は相当でないので、同法第四三二条、第四二六条第二項を適用してこれを取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 橋本盛三郎 裁判官 石井恒 那須彰)

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